今年4月に改正された民法ですが、不動産賃貸実務において、変更される主な改正点のひとつに「原状回復義務に通常損耗は含まないことの明文化」というものがあります。
アパート等の賃貸借では、原状回復に関する精算トラブルが多くあります。
この原因は、改正前の民法に「原状回復」の定義規定がないためです。
原状回復に関する部分を明確にし、国民に分かりやすい民法を実現するために、改正がなされました。
そもそも原状回復の「原状」とは何か?
現状→現在の状態
原状→元の状態
これまで、賃貸実務において、原状回復とは、「賃貸借契約締結当時の状態に回復すること」と考えられてきました。
このため、建物の経年劣化や契約で定められたとおりに使用した結果発生する「通常損耗」についても、賃借人に原状回復義務があるとされてきました。
通常損耗とは?
そもそも原状回復では損耗を3つに区分しています。
- 経年劣化・・・建物や設備の自然的な劣化・損耗等
- 通常損耗・・・通常の住まい方、使い方をしていても、発生すると考えられるもの。(床カーペットの張替費用・畳表の張替費用・壁クロスの張替費用・ブラインドの清掃費用・ルームクリーニング費用等)
- 特別損耗・・・賃借人の住まい方、使い方次第で発生したり、しなかったりすると考えられるもの。明らかに通常の使用による結果とはいかないもの。(引越し作業時のキズ・タバコの焼け焦げ等)
今回の規定によると、賃貸人は、例のような通常損耗費用を敷金から差し引く事が、基本的にはできなくなります。
※ただし、入居者とオーナー間で合意があれば、この限りではありません。
このように、通常損物について、賃借人は原状回復を負わない旨が、今回明文化されました。
条文
正確には、【改正民法第621条(賃借人の原状回復義務)】というものです。
『賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷(通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年劣化を除く。以下この条において同じ。)がある場合において、賃貸借が終了したときは、その損傷を原状に復する義務を負う。ただし、その損傷が賃借人の責に帰することができない事由によって生じたものであるときは、この限りでない。』
これによると、
損傷については、通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年劣化を除く。とあります。
つまりこの損傷とは、通常損耗や経年劣化以外の損耗である「特別損耗」の事を指しており、通常損耗については、原状回復義務を負わないと解釈することができます。
まとめ
今回正式に法律が整備されたことで、敷金返還義務や原状回復に関するトラブルが少しでも減ることが期待されています。
とはいえ、実際の現場では、その地域ごとに都道府県のガイドラインがあり、今回の明文化された内容がすでに取り入れられている場合がほとんどです。
そのため、大きな混乱はないと考えられます。
今回の民法改正は120年ぶりの事であり、以前の条文では時代に合わなくなってきていることが分かります。
関係者が法律を理解し、時代に合った考えを持って取り組むことが、業界の発展につながると考えられます。